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慈恵医科大学 講演会
今回のフォトレポートでは、2015年1月19日に行われた、東京慈恵会医科大学での講演会の模様をお伝えします。
慈恵医科大学では、昨年6月以来の講演会です。今回はファーブラのメンバー6名とともに、総勢8名という大人数での講演となりました。
看護学科の第二学年を対象とした「精神看護対象論」の授業の一コマです。今回は、当事者の体験や感じてきたこと、研究の発表を通じて、当事者研究の効果や、支援のあり方についてお伝えしてきました。
当事者研究を行うと何が変わる?
 はじめに、当事者研究の効果についての最新のトピックスを紹介しました。
 近年、東京大学を中心に『当事者研究の研究』が進められています。アンケート調査から明らかになりつつあるのは、当事者研究を続けることで「把握可能感」が高まりやすいということです。
 当事者研究を続けることで、病気や自分への理解が深まり、自分への気づきが高まりやすくなるそうです。それによって、自分の中でぐるぐると考え続けてしまう思考から抜けやすくなったり、とらわれにくくなるということが確かめられつつあるということです。
 また私たちは、当事者研究を通じて自分に気づいていくことで、病気などの体験によって失われた、自分とのつながりを回復することになると考えています。そして、仲間とともに研究することにより、他者とのつながりを取り戻していくことにもなるとも考えています。

当事者との共通点を探す
 今回の講演会では、学生の方々に目標を持って話を聞いてもらえるよう、あらかじめ一つだけお願いをしていました。
発表をする当事者と、自分自身との共通点を探してもらうことです。
 当事者の経験を、自分とは関係のない出来事と捉えるのでなく、似たような思いやサイクルが自分の中にも起こっているのではないかと、自分の事として考えてほしかったからです。そのように自分事として考え、当事者も自分も人として同じ苦労を持っているんだという感覚を持つことが、支援の土台となると考えているからです。


映画『アナと雪の女王』のテーマから

 当事者研究については、既に授業で習っているということでしたので、今回は音楽を通じて当事者研究について理解を深めてみました。
 『アナと雪の女王』のテーマソング『Let It Go 〜ありのままで〜』を聞いて、この歌と当事者研究との共通点をファーブラのメンバー達に語ってもらいました。
 「自分も相談できずに悩んでいた」
「もう寒くない、というのは、他人の視線に寒さを感じていたのでは」
「縛られているものから、解放されていくというところが似ている感じがします」
 自分の中で抑えていた思いを解放して自由になる、というこの曲には、それまで語ることのできなかったことを語っていく、当事者研究のプロセスに通ずるものがあるようです。

トラワレの研究
 そして、Kさんから自分の当事者研究の発表をしてもらいました。
Kさんの自己病名は「サブカルアレルギー 居候さんにトラワレタイプ・ 実は子供のときに感情を置いてきちゃった病 」です。
 Kさんは、子供の頃から自分の性格や家庭環境の影響で人との関わりに自信を持てず、対人関係の苦労を続けてきました。躁うつ病を発症してからも、仕事に就いたり、学校に通ったりしてきましたが、昨年の冬までは家に引きこもって、ファーブラにもなかなか来られない生活でした。
 実は、仲間とともににいる時も、「話題についていけない」ことにトラワレてしまい、心身にアレルギーのような症状が出てしまっていたということでした。ときにはずっと執着してしまったり、トラワレている状態は異常なことだと自分で思ってしまい、相談できずに引きこもってしまったということです。
 Kさんは、トラワレをなくしたいとずっと思っていましたが、あるきっかけから引きこもりを抜けだして、トラワレの意味についての当事者研究を続けて、様々なことに気づいたと言います。
 その一つが、寂しさや虚しさなどの感情にフタをしてきたということです。トラワレには、そういった感情にフタをして、自分を助けてくれる効果があったのでは、という仮説でした。
 今ではKさんは、トラワレは、様々な感情や、子どもの時の寂しさや痛みを教えてくれるメッセージだと捉えているそうです。
 引きこもりを脱してから、Kさんはまずデイケアに行くことを大事にしているそうです。「とりあえずデイケアに行ければOK」と考えて、一日一日の実績を積み上げていくことを、やったこと、やれた事実に目を向けることを大切にしています。
 また、新しい対処法として、心の中の「子供の自分」に声をかけるという技を活用しています。「大変だったね」「分かってやれなくてごめんね」「本当の自分を教えてくれてありがとう」などと、自分に声をかけたり、紙やスマホに書いて自分と対話をすることで、「子供の自分」との関係に変化が起きているようです。
 「まだ気づいていないメッセージがあるかもしれない、トラワレ現象がなくなってしまうのは逆に困る」「ちゃんと悩むことが、自分にとって優しいことなのかな」と今は考えているそうです。

ありのままが問われるとき
 Kさんの研究で語られたトラワレ現象や引きこもり体験からは、行き詰まったときほど、そういった自分を受け入れるのが難しくなるということが分かります。
 何事も滞りなくうまくいっている時は、そんな自分に問題を感じることは少ないでしょう。しかし、つまづきや失敗、自分の思うようにいかない事態に遭遇したとき、そんな自分も自分であると受け入れることには一定の難しさがあるはずです。もし、そのつまづきが自分にとって大切なことであれば、なおさらでしょう。
 だからこそ、行き詰まったときが、ありのままの自分に気づく一番のいいきっかけであるとも言えます。行き詰まっている自分を研究し、眺めてみることで、それまで自分を不自由にしていたものを発見できるかもしれません。
そして、自らの体験についてお互いに語り合うことで、それが自分だけではないことを知り、同じ苦労を持つもの同士であることを確かめることができるでしょう。そうやって他人とのつながりを取り戻すことが、ありのままの自分を受け入れることを促してくれるのではないかと思います。
 講演を聞いた学生からは、
「人はそれぞれ自分に対して好きになれない部分があると思います。でもそれを隠すのではなく、逆に周囲の人に明かすことで、ありのままの自分を見つめなおせるのではないかと思いました」
「今まで病気を治すことが最終目標だと思っていたけど、その人それぞれで受け止め方が違ったり、病気も自分の一部だという考え方もあるのだと思った」
「統合失調症や躁うつ病の方々は、思っていた以上に身近な存在だと感じた。彼らが抱いている感情は、特別なものではなく、私が時々抱くものであったり、決して特別なものではないと知れて良かった」といった感想を頂きました。
 限られた時間でしたが、熱心に話を聞いて、それぞれに当事者からのメッセージを受けとめていただけたようで、ありがたく思います。ぜひ今後、実習や実際の支援の際に、今回の話のことをちょっとだけ思い出して、役に立てて頂けたらと思います。

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